2024年10月11日、WHITE SCORPIONを運営する株式会社オーバースより「経営体制強化を目的とした役員人事」が決議承認され、同日付で新体制が発足したとの告知がありました。
WHITE SCORPIONは、2023年10月7日に最終合格者の11名が決定されましたので、グループ結成一周年となるこの時期に、代表取締役の佐藤 義仁氏と 取締役の洲﨑 大樹氏が、一線を退いたことになります。
すでに、2024年3月22日の人事で、共同創業者の澤 昭人氏と取締役の水野 信之助氏も、退任されていますので、今回の人事で、創業以来の初期運営チーム全員がいなくなりました。
WHITE SCORPIONの「生みの親」とも言うべき佐藤氏が退任されるとの報に、驚いたファンも多かったようですが、この時期になぜ、新体制へ移行する必要があったのか、そして、WHITE SCORPIONの運営はこれからどのように変わっていくのか、詳しく解説していきます。
【新体制】 (敬称略)
代表取締役社長 奥秋 淳 (新任)
取締役 岡田 剛
取締役 長谷川 智耶 (新任)
監査役 紅林 優光【新任取締役略歴】
代表取締役社長 奥秋 淳 (おくあき じゅん 1973 年生 51 歳)
上智大学経済学部卒業。
1996 年株式会社第一勧業銀行(現 株式会社みずほ銀行)に入行。その後は一貫して金融関連業務に携わる。2018 年株式会社 coinbook に入社し同社取締役、2020 年 1 月には同社代表取締役に就任した。暗号資産や NFT 等の Web3.0 領域に広く精通し、2021 年に出版された「NFT の教科書」において、【NFT×トレーディングカード】の章を執筆。Web3.0 のエンターテインメントへの活用においては特に経験が深い。取締役 長谷川 智耶 (はせがわ ともや 1987 年生 37 歳)
明治大学政治経済学部卒業。
2010 年株式会社シーエー・モバイル(現 株式会社 CAM)に入社。その後株式会社サイバーエージェント等を経て 2020 年株式会社東京通信(現 株式会社東京通信グループに入社し、現在は執行役員。同社における「エンタメテック」分野の責任者として、複数のアイドルグループのファンクラブサイト運営や、メッセージアプリ「B4ND」の展開等に従事している。* 代表取締役 佐藤 義仁氏及び取締役 洲﨑 大樹氏は、同日付で退任いたしました。
ホワイトスコーピオン運営が新体制へ 命運を分けるレインツリー
アイドルの退職金に? 「推し活」を変革させるメタバースの可能性 佐藤義仁(株式会社オーバース代表取締役社長)、澤昭人(株式会社オーバース取締役副社長、公認会計士) https://t.co/ahrvbrsgHj pic.twitter.com/YmadRzFt6x
— PHPオンライン編集部 (@PHP_shuchi) June 23, 2022
佐藤 義仁氏および創業チームの功績
佐藤氏を中心とした創業チームは、各方面へ精力的に折衝を重ね「アイドル・エンターテイメント分野、金融・証券分野及びブロックチェーン分野のそれぞれに精通したメンバー」による合同会社(エンターバース)を設立させました。
このエンターバース合同会社が、暗号資産NIDTを発行し、アイドル育成を目指す株式会社オーバース設立の最初の基盤となりました。
その他にも、IEOや暗号資産に関わる金融当局の審査を通過するための準備にも奔走し、その後は、音楽会社にキングレコード、プロデューサーには秋元康氏を迎え入れ、徐々に盤石の体制を築き上げていったのです。
暗号資産NIDTの逆風
ところが、次第にNIDTが計画通りに資金調達できないという現実に直面していきます。
オーバースが資金調達の為に実施した国内4例目のIEOは、1,500,000千円を予定していたところ、実際の資金調達額が1,001,845千円であったため、当初計画から「使途にかかる金額」が変更されました。
当社のNIDTの販売による資金調達額について1,500,000千円を予定していたところ、実際の資金調達額が1,001,845千円となったため、2023年6月30日に開示したとおり、その調達金額に応じて使途にかかる金額を変更しております。
調達額:1,001,845千円
対象事業プロジェクト(調達額の67%)
計画値:671,236千円
実績値:667,777千円 対象事業の業務推進のために支出いたしました。
管理費(調達額の20%)
計画値:200,369千円
実績値:180,145千円 対象事業の管理全般のために支出いたしました。
予備費(調達額の13%)
計画値:130,239千円
実績値: 50,665千円 対象事業の管理全般のために支出いたしました。引用元:「新規暗号資産の販売に関する規則」第5条第3項に基づく定期情報開示(6)調達資金の全部又は一部を使用した場合には、使用した資金の額等及び使途の内容
当時「IEOで10億を調達」と大きく報じるメディアもありましたが、予定金額に届かなかったことに一抹の不安を覚えるIEO参加者は、少なくありませんでした。
過去の国内IEOは、その後のボラティリティが高く、一度高値を付けると急落する事例が多かったことから、IEO終了後は、長期的に安定した活動資金を調達し続けていくのは厳しいとする見方もあったからです。
2023年8月22日NIDTチャート(一時急落の様子)
2023年4月26日、暗号資産NIDT(ニッポンアイドルトークン)は、1NIDTあたり5円で国内の暗号資産取扱所である株会社coinbook及び株式会社DMMBitcoinに上場されました。
DMMBitcoin 不正流出事件
NIDTは、上場した後も市場参加者が少なく、流動性が低いままの値動きが続いていました。
ボラティリティが大きく価格が不安定な状態だった為、2023年9月の大きな急落を機に、販売所であるDMMBitcoinでは、40円以上のスプレッドが広がる異常事態となりました。
2023年9月13日 NIDT急落直後のDMMBitcoinスプレッド
そして2024年5月31日、突如発生した「DMMBitcoin不正流出事件」が、長らく軟調だったNIDTに、さらなる追い打ちをかける結果となってしまったのです。
長期的に見れば、WHITE SCORPIONの活動に比例して、NIDTの値も徐々に安定してくると思われていましたが、事件後、DMMBitcoinは取引制限を課し、NIDTのセンチメントは完全に悪化してしまいました。
事態を重く見た株式会社coinbookは、機能停止中のDMMBitcoinの受け皿となるべく、急遽「販売所」を立ち上げましたが、IEO実施時から販売規模が約2倍のDMM Bitcoinを、これでカバーしきれているかは非常に懐疑的です。
当該販売期間の終了時点における新規暗号資産の販売総量:200,369,000 枚
【内訳】
株式会社coinbookでの販売総量:69,660,000 枚
株式会社DMM Bitcoinでの販売総量:130,709,000 枚引用元:「新規暗号資産の販売に関する規則」第5条第3項に基づく定期情報開示 (2)新規暗号資産の発行及び販売等の状況(追加発行等の状況を含む)
NIDTの現状
現在、株式会社coinbookが取扱所として堅調に推移していることで、かろうじて30円前後(2024年10月現在)の値を維持していますが、センチメントがさらに悪化すれば、いつ急落しても不思議はありません。
この先、少しずつロックアップが解除されていくことを考えれば、NIDTの下落、あるいは上値が重い展開は、まだ続くでしょう。
また、IEO以来のホルダーや、WHITE SCORPIONを応援するためにNIDTを保持している方も、ファンランク特典やNIDT決済コンテンツが十分とは言えない今の状態では、積極的に買い増す理由も見当たりません。
このままの状態が長く続けば、株式会社オーバースが、新たな活動資金が必要になったとしても、もはやNIDTでは調達できない可能性があり、当初の計画の根幹が崩れてしまう懸念があります。
ロックアップ対象外のNIDTに関しては、オーバースは「用途が限定されているため、当社が市場で直接売却する予定はございません」と明言してあります。可能性としては低いですが、万が一、明確な理由もなく「一部を売却」等の話が出てきた場合、投資判断としてはもはや危険信号(強い売りシグナル)です。
もっとも、まだまだ板が薄い今の状態で、まとまった売りなんか持ち込んだら、それこそ価値なんかなくなっちゃうけどね。
オーバースの財務状況
株式会社オーバースは『定期情報開示「新規暗号資産の販売に関する規則」第5条第3項に基づく定期情報開示』で、定期的に財務状況を報告しています。
詳細なキャッシュフローを見なければ、会社の経営状況は一概に判断できませんが、公開されている数字を見た限りでは、オーバースのこれまでの財務状況はよくありません。
株式会社オーバース 2024年12月期月次累計実績(2024年6月30日時点の暫定値)
【資産の部】
流動資産:198,788千円
固定資産:90,084千円
資産合計:288,873千円
【負債の部】
流動負債:59,419千円
【純資産の部】
資本金(資本準備金を含む):70,000千円
利益剰余金:159,453千円
純資産の部合計:229,453千円
負債純資産合計:288,873千円
(参考)
【第2期決算公告】
当期純利益:283,914千円
利益剰余金:252,628千円引用元:「新規暗号資産の販売に関する規則」第5条第3項に基づく定期情報開示
(対象期間:2024年6月29日~2024年9月27日)
スタートアップ企業のキャッシュフローが、初期の段階でマイナスになることは珍しくありませんが、オーバースの場合、経常損失が少しずつ増えて資産が目減りしている状態です。
※「新規暗号資産の販売に関する規則」第5条第3項に基づく定期情報開示に基づく推移
これは短期的な財務状況ですので、それほど心配する必要はありません。とは言え、経常利益をあげていかないと、IEOの調達資金も、いずれは底を突いてしまいます。
オーバース新体制の鍵を握るレインツリー
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Rain Tree アーティスト写真公開❕✨
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🔗https://t.co/EfAAESArNm#RainTree… pic.twitter.com/0BQr82R61x— Rain Tree (@RainTree_RT) October 8, 2024
Rain Tree(レインツリー)は、IDOL3.0プロジェクトの最終オーディションで「惜しくもデビューを逃したファイナリスト」17名のメンバーで構成された新グループです。
運営元である株式会社オーバースが、新グループを次々にデビューさせていけるほど、経営状況が上振れているわけではないことは、すでに述べてきました。
このような状況下でなお、さらなる運営コストの増大を覚悟してまで、新グループRain Treeをデビューさせていくことを決断した意味を、NIDTホルダーはよく考えなければなりません。
新経営陣が重視していること
これまでの運営は、佐藤氏をはじめ、マーケットの知識に精通した金融のプロ達で固められていたのに対し、新体制では、Web3.0をより実践的に経営に活かしていこうとする意思が窺えます。
株式会社coinbookから奥秋 淳氏、株式会社東京通信グループからは長谷川 智耶氏を起用したことで、この先、運営が何を重視していくつもりなのかが、自ずと見えてきます。
お二人の専門分野であるNFTおよびエンタメテック事業です。
ちなみに、佐藤氏は取締役を退任されても、株式保有比率62.5%のエンターバース社員である限り、その影響力は残ります。株主総会(取締役会)でも重要な決定事項は、株主である佐藤氏の意向を無視できない形になっています。
エンターバース合同会社の代表社員を、いつまで続けるかはわからないけどね。
新運営の戦略
例えば、NFTトレカやB4NDのようなアプリを今後も開発していこうとするなら、WHITE SCORPIONの11名だけでは圧倒的にコンテンツ量が少ないのです。
世界に向けて幅広く展開していくためには、WHITE SCORPIONに加え、Rain Treeメンバー17名をデビューさせてコンテンツを増やし、新規のファンを獲得していく必要があります。
具体的な戦略としては、以下のようなものが実際に見受けられます。
- 利益最大化を図る
- 従来の運営法に一部回帰
- 暗号資産と法定通貨の両輪による運営
利益最大化を図る
かつて、株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ執行役員の今野義雄氏は、2024年7月に開催された「EXPO特別講演」の中で、乃木坂46ほどの動員数であっても、ライブのチケット収益は「ほぼゼロ」であると述べました。
また、逆に「生写真は大きなマーケット」だということも明かしました。
現在のWHITE SCORPIONとRain Treeのオフィシャルグッズと、そのラインナップを見れば、同じ方向を向いて生写真に注力しているのは明白です。
あとは教科書通りに単価を上げるか集客を増やすかして、利益最大化を図るという話になりますが、オーバースはRain Treeの17名をデビューさせ、まずは集客にポイントを置きました。
誰か一人でも「推したい」と思わせれば、NIDT保有にも繋がります。今後はライブやフェスといったグループ単位の仕事以上に、メンバー個人の仕事が増加していくと予想します。
でも、メンバー間でコンテンツの売り上げに差が出てくるよ。運営が収益重視に偏り過ぎると、従来のように批判にさらされることになるよ。
従来の運営法に一部回帰
運営は、暗号資産NIDTを活動資金とする当初の計画が、長期ではままならない可能性も見え始めた為、ここに来て従来のアイドル運営法に一部回帰している印象があります。
佐藤氏が初期に「積み上げるようなことにはならない」と語っていたのになくならなかった、ファンによる同じCDの大量買いも、そこに起因する一部回帰のひとつです。
運営としてはWhitepaper(ホワイトぺーバー)記載の当初の計画やコンセプトは、WHITE SCORPIONで維持しますが、Rain Treeには、AKB48や坂道シリーズのような、従来の運営方法を一部取り入れようと試みています。
従来のように、推しの為に大量にCDを購入するなどの「競争原理」をファンの間で働かせて、お金を使ってもらわなければ収益が上がらないという現実が、背景にあります。
暗号資産と法定通貨の両輪による運営
新体制に移行したことによって、今後は暗号資産NIDT一辺倒でなく、従来通りの法定通貨(円)による決済や収益が、再び重視されるようになるはずです。
例えば、NFTトレカなどの新たなコンテンツ開発、NIDTの価値向上とユーティリティ拡大は、代表取締役社長の奥秋氏が担うでしょう。
一方、ファンクラブ会員や、メッセージアプリ「B4ND」のユーザーを増やしていき、エンタメテックの分野で収益を上げていくのは、取締役 長谷川氏の役目です。
この「NFTとエンタメテック」の両輪は、暗号資産と法定通貨それぞれの収益化が見込める、新体制の経営スタイルです。
NFT関連コンテンツはNIDT決済が理想ですが、NIDTが広く普及するまでは、しばらく、ファンクラブやB4NDの利用料金のように(法定通貨による)カード決済が、今後も主流となっていくでしょう。
結局、決済方法は簡単な方が商品は売れやすいからね。
まとめ
- WHITE SCORPIONの「生みの親」である佐藤氏をはじめ創業チームの功績は大きい
- IEOでの資金調達は予定金額に達しなかった
- 上場後も不安定な値動きと不正流出事件などでNIDTへの逆風が続いた
- ここまでの株式会社オーバースの財務状況はあまりいいとは言えない
- 運営コスト増を覚悟してまでRain Treeデビューを決断した理由が運営にはある
- 今後のNFTとエンタメテック事業展開においてRain Treeというコンテンツを加える必要があった
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